関塾ひらく「インタビュー」 各界で活躍する著名人に教育や経営をテーマとしたお話を伺いました。
財団法人経済産業調査会 理事長  野々内隆氏
教育の「育」が不足した社会の中で教育者がやるべきこと
 
Profile
昭和31年、京都大学経済学部卒業後、通商産業省入省。基礎産業局長、資源エネルギー庁長官を経て、昭和62年退官。
同年(株)三和銀行 常勤顧問、平成元年(株)日立製作所 取締役、平成10年にジャパン石油開発(株)代表取締役社長を務め、平成16年退任。
同年、(社)中小企業診断協会会長を経て、現在は(財)経済産業調査会理事長に就任。
「みんなで明るくあいさつをしよう会」、「NPO法人 日本ホスピタリティ協会」会長も務める。


通商産業省で31年間ご活躍された野々内氏は、経済産業調査会理事長として、経済産業施策の普及・啓発事業に取り組まれています。経済産業調査会理事長のほかに、あいさつの運動やホスピタリティ協会での活動を積極的に行い、家庭教育や人間関係の重要性を実感しておられます。野々内氏に、教育に対する考え方をお伺いしました。

日本の産業・文化の発展を支え、高度成長の波に乗って私達の豊かな暮らしの形成に大きく貢献してきた「ものづくり」。これにより、世界的な成功を収めた一方、「心」の不在を危惧しておられる野々内氏。教育に携わる者にとって、これからの日本を担う子供達への「心」の教育は、大きな課題であるといえます。まずは大人が、日々の挨拶や、他人への思いやりなどを示すことが大切ではないでしょうか。

時代のニーズに合わせた誌面づくり


 財団法人経済産業調査会は、経済産業省(旧通商産業省)の調査・広報機関として、日本の経済産業施策の広範な普及と調査を目的に昭和24年に設立されて以来、約50年にわたり運営しています。主な業務は、経済産業政策の広報事業、経済産業全般にわたる出版活動を行なっています。
出版物には、日刊紙「経済産業公報」を毎日出しています。行政広報紙として、経済産業省の広報活動の一環を担い、行政に関する法令・通達や発表資料、重要なテーマについては臨時特集号を組む等、詳細な日刊情報紙として定評があります。また、経済産業省の広報誌として「経済産業ジャーナル」を毎月出しているほか、産業関係の統計月報、各種法規集や解説書等の単行本など、数多くの年間刊行物・臨時刊行物を出版しています。私たちは単に本を出版するだけでなく、その背景や解説などをしっかり掲載して、お客様のニーズに合わせた内容を心がけています。
もうひとつ主な任務として、講演会やセミナーを開催しています。経済動向、経済問題などで現在注目を集めているテーマについて、著名な講師を招いて行なっています。ここ最近で一番多いテーマは、知的財産や特許についてです。知的財産を大切にしようという風潮がでてきて、なかでもベンチャービジネスの方たちが多いですね。全国で100ヵ所以上もセミナーを開いています。当会では、知的財産や特許に関する「特許ニュース」という日刊紙も出していまして、高等裁判所の裁判官の方たちをはじめとする司法関係者の方々に、執筆協力を頂いて作っています。
昔は政府の規制が厳しく、何をするにしても政府の発表がないと動けなかったんですね。そのため政府の施策を公表する「経済産業公報」などの出版物は大変重要視されていました。しかし、現在のように規制が緩和されますと、政府の発表を掲載するのみでは出版物の魅力がなくなってきました。最近では世の中で関心の高い出来事やテーマを見つけだし、お客様の望む記事を作るようにしています。例えば、地域振興に熱心な地方自治体に向けて、地域おこしの成功例を掲載したり、製品メーカーに向けて製品事故の欄を設けたりするなど、時代に合わせて内容も変わりつつあります。

家庭教育は挨拶から

私は他にも心の問題に関係する活動を行なっています。97年に神戸で連続児童殺傷事件が起こったときに、家庭教育の問題だと当時の文部大臣がおっしゃられたんですね。その文部大臣は昔の私の仕事仲間でもありましたし、私も家庭教育をどうしたらいいのか考えていました。そこで、当時私は日立製作所でコンピュータ関連の仕事に携わっていましたので、東芝やIBMなどの方たちを集めて、自分達に何が出来るかを検討しはじめました。
最初は子どもたちが最低限学ぶべき社会道徳をピックアップして広めようとしましたが、議論していくうちに選択が難しいことがわかりました。最終的に明るく挨拶を出来ることが、コミュニケーションの第一歩である、という結論に達しました。家庭の中で、朝起きたら“おはようございます”の挨拶を親子で交わし、食事の時は“いただきます”、外出する時は“いってきます”と挨拶が言える家庭ができれば、きっと子どもはいい子に育つだろうと考えたんです。子供と大人達の間、そして子供同士のコミュニケーションに「挨拶」は欠かせないものとして、『みんなで明るくあいさつをしよう会』という運動をスタートさせました。
現在、全国に約700人の方々が、この運動に参加されています。挨拶をすることは大事、積極的に挨拶をしたいという人が手を挙げて登録する、組織のないボランティアの形をとっています。年に1回、各自で活動していることを発表する総会を東京で開いています。ある地域で運動を行なっていたり、自分でホームページを立ち上げたり、実費で本を作られたりと、すべて自分がいいと思ったことはやりなさいというスタンスです。企業や大学、著名な方たちも参加されていますね。もっとこの運動が広まり、挨拶をもって家庭教育がいい方向へいくことを願っています。


人間関係を円滑にする教育を

 教育関係の活動としてもうひとつ、『NPO法人日本ホスピタリティ協会』の会長を務めています。ホスピタリティというのは、思いやり、もてなし、他人へのやさしさなどを意味する言葉で、要するに人間関係を円滑にするということなんですね。当協会では、主にホスピタリティの通信教育、検定試験、講習会の3つをメインに活動していますが、最近は通信教育と検定試験を希望される方が非常に増えています。
通信教育でいいますと、採用内定者に通信教育を受けさせる企業が増えてきました。入社する前にホスピタリティの指導をされたり、新入社員の研修に通信教育を使われたりしています。これも家庭教育に繋がっていくと思いますが、人と人との関係を上手に処理する教育はどこでも行なわれていないんです。だから、こういったホスピタリティの教育が求められているのではないでしょうか。
私は通商産業省に長年いまして、ものをつくることを一生懸命やってきました。通産省を辞めてから20年になりますが、次は心をつくらなければならないと思っています。日本はものづくりでは世界的に成功してきましたが、それと同時に心の崩壊が進行していったのではないかと心配しています。近年は、マナーの悪い若者に社会が注意しない傾向にありますが、それは社会の責任でもあると思います。
私が中学時代に印象に残っているのは、市電でアイスキャンディを食べていたら、同じ中学の先輩からものすごく怒られたことがありました。今思えば、それが教育だったんでしょうね。現在の日本の教育は、教育の「教」ばかりやっていて、「育」の方は不足していると思います。社会の中で共存していくというルールをしっかり身につけて、人と人との関係をスムーズにできるような教育をしていただきたいと願っています。


教育者に望むこと

私は父親からよく、「お前はものすごく好奇心が強かった」と言われていました。何かを説明すると、「どうして?」と次々に聞いてきて、かなわなかったと。私の娘の子どもにも、そういうタイプがいますが、娘にはいいことだと言っています。子どもが好奇心を発揮して何かを聞いてきたら、それにちゃんと向き合って真面目に答えてあげれば、子どもは次々に好奇心をもって伸びていき、立派に育つと思っています。親のことも尊敬するでしょうし。ですので、教育者は子どもの好奇心にきちんと向かい合うことが大切ではないでしょうか。それと同時に勉強を教えるだけではなく、人間形成も考えられる教師であってほしいと思います。


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