関塾ひらく「インタビュー」 各界で活躍する著名人に教育や経営をテーマとしたお話を伺いました。
JR東日本テクノハートTESSEI おもてなし創造部 顧問 矢部 輝夫氏
ビジョンを示し、現場を生かすそして最後までやり遂げる
 
Profile
JR東日本テクノハートTESSEI おもてなし創造部 顧問 矢部 輝夫氏1966年日本国有鉄道入社。電車や乗客の安全対策の専門家として40年以上勤務。2005年鉄道整備(株)(2012年現社名に変更)取締役経営企画部長に就任。2011年専務取締役に。2013年退任後は、おもてなし創造部長(嘱託)に就任。2014年同部顧問。新幹線清掃の会社をおもてなし集団へと変革させた。

ビジョンを示し、現場を生かすそして最後までやり遂げる

新幹線や駅構内の清掃を行うJR東日本テクノハートTESSEI(以下、テッセイ)。折り返し停車のわずか7分間で新幹線の車内清掃を行うプロ集団です。
その姿は「新幹線劇場」と称され、米CNNも「7 minutes miracle」と賞賛。現在では、ハーバードビジネススクールの必修科目としても取り上げられています。
いかにしてスタッフが生き生きと働く組織を作り上げられたのか。
組織のマネジメントを担った、おもてなし創造部顧問の矢部輝夫さんにお聞きました。


■「7分間の奇跡」を実現する現場


 7分間。それは、駅のホームに到着した新幹線が再び発車するまでの間、車内清掃に使える時間です。座席の下や物入れのゴミ集め、座席の向きの変更、テーブル拭き、窓枠の掃除、座席カバーの交換、忘れ物チェックなど、7分間で多種多様な仕事をこなします。100席の車両なら担当は1名。1チーム22名で、1日約20本の車両清掃を行っています。テキパキと車内を動き回るスタッフをイメージしていただけるでしょうか。
 また、スタッフが車内に入る前は、降車するお客様一人ひとりに「お疲れ様でした」と声を掛けます。そして、車両がホームに入ってくるときも、清掃を終えたときも、1列に並んでお辞儀をします。テッセイのスタッフは、速さはもちろん礼儀正しさも大切にしているのです。
 お辞儀のアイデアはスタッフの発案でした。他にもスタッフの自発的な提案が、清掃品質やサービスの向上につながっています。そしてスタッフは皆、生き生きと働いている。完璧な清掃を実現するチームワークや、「お客様に楽しんでいただきたい」というおもてなしの心は、元気な現場から生まれているのです。
 ここに辿り着くまでに8年。長い道のりでした。


頑張りを評価する仕組み

 新幹線の清掃は、とても大切ではありますが、世間からはなかなか注目されにくい仕事です。私がテッセイの取締役経営企画部長に就任した当初、会社のイメージは悪く、あまり活気がありませんでした。
最初の1ヶ月は実習としてスタッフと一緒に掃除に参加します。すると、スタッフの能力は高く、仕事にも真剣なことがすぐに分かりました。スタッフが話したことや細かい気づきでノートがびっしりと埋まる毎日でした。その後1年半は、スタッフに私のほうを向いてもらうため、私の発言に耳を傾けてもらえるようになるまで、目立った行動は取りませんでした。
見えてきたのは、管理することに終止してきた組織の問題です。確かに、7分間で清掃を実施するチームを運営するための統制は不可欠。しかしマニュアルを守らせるような管理だけでは、自分の頭で考えて実践する機会を奪ってしまいます。スタッフを管理するだけでなく、頑張りや意欲を適切に評価する仕組みが必要だと気づきました。
私たちの仕事は、ただの清掃業ではなくサービス業です。速くて、正確で、完璧な清掃を通じてお客様をおもてなししています。そして、おもてなしのヒントや改善策に気づくことができるのは、間違いなく現場のスタッフです。私は「本社は現場第一線の支援組織として機能していく」ことを経営計画として明記しました。そして、お客様に楽しい旅を味わっていただくため、清掃に限らずさまざまなサービスを提供しよう、という方針を打ち出したのです。1年半関係を築いてきたスタッフは、きっと私についてきてくれると信じて。


■ 顧客・社会に貢献する 不可欠な存在として

 会社として目指すのは、社会に不可欠な企業として、日本の産業を支えていくこと。私がよく社員に話すキーワードが「プロジェクト」と「ソリューション」です。設計したものは自分の“作品”ではなく、クライアントと一緒につくり上げる「プロジェクト」だと考えてほしいと思っています。そして、私たちの仕事は“デザイン”ではなく「ソリューション」を提供することであり、設備や施設によって、クライアントや社会に対してソリューションを与えるべきだと考えてきました。それが我々が目指す「ファシリティ・ソリューション」を提供するという企業の根本です。
建物はがらんどうでは成り立たない。工場ならどのようにモノが運搬されるか、オフィスならどうすれば効率よく人が動けるか、人やモノの動線、配置も含めて突き詰めて考えなければなりません。プランテックグループは、主要業務である設計・監理業務だけではなく、生産工程や物流システムに関するコンサルティング業務といった設計以外の分野を含め、サービス・業容を拡大してきました。これは、クライアントが求めているだろうこと、我々がしなければならないだろうことを考えた結果です。一連のサービスでお客様のニーズを上から下まで満たし、社会が求めている機能やマーケットをすべて押さえることで信頼を獲得でき、存在感を高めることができるのです。

「ノー」ではなく 「ありがとう」

 「モノは売るな、モノの買い方を売らなければならない」。これが私の基本的な考え方。要は、「白い靴が欲しい」という人に「うちにはありません」と答えるのではなく、「うちにはありませんが、□○靴屋にはあります」と答えられるかの違いです。後者の靴屋は、お客様の信頼を獲得できると同時に、答えるために業界の他社商品を端から端まで見るようになるはずです。
 塾も同じではないでしょうか。私がもし塾を経営するなら、競合をすべて知った上で、何をすべきか、保護者や生徒にとって何が本当に必要かを考えると思います。


自分がいる以上はやり遂げる

 その他、制服の刷新や、働き続ける意欲が持てる人事制度、真面目にコツコツ頑張る人を褒める「エンジェルリポート」など、さまざまな取り組みを通じて、マネジメントを改革してきました。その積み重ねが、生き生きと働いているスタッフの姿に結びついているのだと思います。
 とはいえ、人の感情は複雑ですから、1年や2年では簡単に変わりません。逆風が吹く場面ももちろんありました。それでも、“自分がここに来た以上、何かをやり遂げなければ”という意識が私を支えてくれました。もともと負けず嫌いな性格で「テッセイに行って何も変えられなかった」と言われるのはくやしい。ましてやキャリアの最後の華を飾る大仕事でしたから、絶対に良い組織に変えるんだという強い思いがありましたね。


現場力を支える リーダーの存在

 スタッフの提案にはノーと言わないという話をすると、いかにもスタッフが自由に働いていると感じられるかもしれません。しかし、7分間という限られた時間で完璧な清掃を行うために、規律と厳しさも重視しています。良い組織は規律がしっかりしている。自由は規律の中にあると考えています。
テッセイのチームは指揮系統が明確です。1チームに1人メンバーを率いるチューターがいて、その指示のもと行動しています。経験豊富なチューターは時に厳しい先生であり、時に優しいお母さんです。最前線でスタッフの教育やケアを担い「7分間の奇跡」を支えています。
現在スタッフは860名ほど在籍しており、全員の人材育成を本社で担当することはできません。やはり、会社の目標を理解し行動してくれるリーダーが各現場に必要です。チューターは、そういったリーダーの役割を果たしてくれています。
リーダーの成長のために、私がよく言っているのが「鏡育」という言葉です。これは、自分の仕事への向き合い方は、相手に写って返ってくるという考え方。教わる側は、言葉以外にも声の出し方や目の動き、ちょっとした耳の動きから、さまざまな印象を受け取ります。だからこそ、人に教える前にまずは自分がしっかり仕事をするべきなのです。


ビジョンを指し示すこと

 ところで皆さん、マネジメントという言葉の語源をご存知でしょうか。“Management”はラテン語で「手」を意味する“munus”からきています。ですから経営者(Manager)は、「あっちに行くんだ」と指をさし、目標を示す人のことだと私は考えています。
 塾経営を考えると、将来の日本を支える大切な子どもたちをどういう風に育てていくかを示すことが必要でしょう。また、講師の方に向けて「こんな子どもを育てたい」と語ることが求められます。オーナーの皆さんには、塾として目指す目標・ビジョンを明確に指し示してほしいですね。そして、子どもや講師とともに達成感を共有し、共に喜び合える組織を作っていただきたいと思います。



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