関塾ひらく「インタビュー」 各界で活躍する著名人に教育や経営をテーマとしたお話を伺いました。
大阪市立天王寺動物園 園長 牧 慎一郎 氏
長期的視点を持ち持続可能な組織づくりを追求する
 
Profile 名古屋商科大学野球部 監督 中村 順司氏 1971年大阪府生まれ。1995年大阪大学大学院卒業。科学技術庁入庁後、経済産業省、内閣府原子力委員会事務局、文部科学省科学技術政策研究所企画課長などを経た。他方で“動物園マニア”としてNPO法人市民ZOOネットワーク前代表理事を務め、2006年にはTVチャンピオン「全国動物園王選手権」で優勝。2014年に公募で大阪市動物園改革担当部長に就任。翌年より天王寺動物園長を兼務。


『天王寺おばあちゃんゾウ 春子 最後の夏』
年老いたゾウと飼育員の愛情物語
甲子園最高勝率  戦後間もない1950年、天王寺動物園に来園してから60年以上も大阪の人々に愛され続けたアジアゾウの春子。2014年夏、天国へ旅立つまでの最後の日々を記録したドキュメンタリー映画がDVD化。

 旧科学技術庁、文部科学省のエリート官僚から、公募で任期3年の天王寺動物園長(兼 動物園改革担当部長)へと転身した牧慎一郎園長。
実はTVチャンピオン(テレビ東京系列)「全国動物園王選手権」で優勝するほどの“動物園マニア”。
キャリアを捨て、満を持して飛び込んだ動物園経営の道にかける、熱い思いを伺いました。

■ ペンギンから始まった 動物園マニアへの道

   旧科学技術庁で主に担当してきたのは「科学技術政策」で、具体的には、国立研究所のマネジメント、原子力や宇宙開発の研究プロジェクトのマネジメントやその研究成果の発信など、企業でいう経営企画や広報にあたる仕事に20年以上携わってきました。
 そんな私が“動物園マニア”の世界に足を踏み入れるきっかけとなったのが、ペンギンです。もともと妻が好きで、一緒に各地の動物園や水族館でペンギン巡りをするうちに、ペンギンという軸を中心に施設ごとの展示方法などを比較する視点を持つようになりました。そこから動物園や水族館の施設そのもの、さらに運営へと関心が広がり、数年後には動物園を支援するNPOに参加するほどになっていました。私は肩書きと権力が大好きなものですから(笑)、頼まれてNPO代表理事に就任。「エンリッチメント大賞」という表彰制度を設け、動物の幸せを考えた環境づくりに取り組む動物園を応援する活動を続けていました。すると徐々に、動物園の知識と行政で培った運営ノウハウを生かして、公立動物園の改善計画に有識者として関わるようになり、「いつか動物園を運営したい」と思うようになったんです。
 ですから改革担当部長の公募要領を見たときは、「自分のことだ」と思いました。求められているのは、経営改善のための計画立案、対外発信の強化など。入園者数の低迷に悩む動物園を再生するための“改革”でした。

■ トライ&エラーで成功体験を重ねる

   とは言え、採用決定後に改めて園内を回ってみて、「えらいこと引き受けてしもた」と思いましたよ(笑)。施設の老朽化は仕方がないにしても、目に見えて寂れている。客商売である以上、メンテナンスをして、古いなりに小ぎれいにすべきです。しかし予算不足、人手不足が常態化し、目が行き届かず、職員には「どうしようもない」という思いがある。やる気がある職員もいるだけに、この“負け癖”をなんとかしなければと思いました。
 そこで最初に着手した企画が、改革の旗印となる目玉企画の立ち上げ。それが夜の動物たちを見られる『ナイトZOO』です。照明などの設備や勤務時間の延長など懸念事項はありましたが、なんとか実行に踏み切りました。
 そのほか、小動物などに触れ合える「ふれあい広場」のオープン、動物の赤ちゃん誕生を知らせる掲示といった取り組みを開始。大切なのは、私たちが少しずつでも「変わろうとしている」姿をお客さんに知っていただくことです。私たちにとっても、「変われる」と思えば夢が見られる、前向きになれますよね。
 こうした企画を立てる上で忘れてはならないのは、“おもろいこと”をしようという気持ち。役所というところは保守的になりがちですが、エラーを恐れてトライしなければ、失敗がないかわりに前進もありません。職員には、少しの失敗は受け止めるから、トライ&エラーが必要だと話しています。
 この仕事の良さは、お客さんの反応がすぐ返ってくるところ。私が関わってきた官庁の仕事とはそこが大きく異なります。人の意識を変えるのは容易ではありませんが、上からの指示ではなく、自ら出したアイデアが形になり、お客さんが喜んでくれる。そんな成功体験の積み重ねが、少しずつ意識を変えていくと思っています。
 また、飼育員はもちろん、売店やチケット売場など外部委託会社のスタッフとのコミュニケーションも心掛けています。じかにお客さんと接する彼らの声からは課題が見えてくるし、組織のボトムがよくなれば、全体が変化するはずです。

■ 動物園のポテンシャル

  動物園を運営するおもしろさはやはり、なんといっても生き物を扱っている点。生きているということは常に新しく、日々変化があるのです。
 それから動物園には、まだまだポテンシャルがある。子どもだけでなく、大人の視点でも楽しめる施設なのです。知識を持って物事を見れば世界は広がります。お客さんは動物園にそこまで求めていないかもしれません。でも、運営側もお客さんも気づいていない、眠っている資源を生かす工夫・改善の余地があると考えています。
 さらに言えば、動物たちを通して野生動物の世界に思いを馳せる、その“窓”になり得る。園内の動物の多くは絶滅危惧種です。「かわいい」という側面だけを消費するのではなく、目の前にいる彼らの背景、つまり本来の生息地や地球規模の問題に目を向けるきっかけになるかもしれません。動物園にはそれだけのポテンシャルがあると信じています。

■ 公的意識と利益の追求好循環を生む組織へ

  「持続可能な組織づくり」これが任期満了までの目標です。2013年度の入園者数は116万人でしたが、新企画や100周年記念事業の成果もあり、2015年度には160万人を超える見込みです。今後もさらなる収入・集客アップを図らねばなりません。 今年度は“動物園としての基礎力”を上げる、つまり「動物の魅力を発信する」という、本来のあり方に立ち返るべきだと思っています。そのためには、計画的な飼育・繁殖を第一に、魅力的な企画のほか、今年度は園内の設備メンテナンスに資源を集中投入します。勝負どころを見極めて予算配分しながら、新たなリニューアル計画の構想を進める必要があります。
 動物園のような施設の場合、公的意識と利益追求のバランスがとても大切です。どちらかに傾倒しないようにバランスを追求する。そこが難しさであり、おもしろみでもありますね。このバランスを追求する上で、欠かせないのが顧客視点です。なぜなら役所こそ、一般の方を顧客としたサービス業だから。新たにCS担当部署を設け、現場を巻き込んだCS活動の定着を進めています。
 私の任期が終了しても改革を継続し、今よりも良い状態で持続可能な動物園にするための「仕組み」を残す。これは、ある意味で“未来への投資”ですよね。特に公的事業の場合、すぐに結果の出ないものが多い。教育も同じではないでしょうか。入場者数や売上といった目前の数字で判断されがちですが、長期的視点でしっかり計画を立て、未来に投資していく。人・モノ・カネが安定的にきちんと回る、PDCAが回る仕組みづくり。これらを粘り強く、そして夢を捨てずに努力した先に、持続可能な組織がつくれると思います。


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