関塾ひらく「インタビュー」 各界で活躍する著名人に教育や経営をテーマとしたお話を伺いました。
脳医学者 吉田たかよし氏
"15分集中"の習慣が学習意欲の向上につながる
 
Profile
灘中学・灘高校、東京大学卒業。東京大学大学院を修了。NHK アナウンサーとして勤めた後、医師免許を取得。加藤紘一元自民党幹事長の公設第一秘書として科学技術政策の立案に取り組む。東京大学大学院・医学博士課程修了。学習脳科学研究所の所長として脳医学の学習への応用研究に取り組む一方、本郷赤門前クリニックの院長として受験生専門の内科神経科クリニックを開設。学習カウンセリング協会の理事長として受験生の父母や学習塾・予備校・中学・高校の教員に対し、適切な教育法の指導・普及に努めている。2009年10月より、東京理科大学客員教授。



吉田たかよし先生は、脳医学の立場から、どうすれば勉強・教育の効率が高まるのかを研究し、受験生やその父母などにアドバイスを送っていらっしゃいます。 教育に対するお考えを、教室で実践できるノウハウも含めてお話しいただきました。

両親の前で一日の出来事を発表


私が幼い頃受けていた教育として覚えているのは、両親の前で毎晩その日の出来事を発表することです。妹と二人、4歳のときから、大きなミシン台に乗って発表していました。内容は、最初のうちは「どんな遊びをしたか」、それが小学校高学年の頃には「どんな勉強をしたか」になっていました。3分から5分くらい話さなければいけませんから、これはけっこう大変です。毎日同じ遊びばかりしていたのでは、すぐ話すことがなくなってしまいます。新しい遊びを考えたり、同じ遊びでも何か工夫をしたりして、話のネタを作ろうとしていました。
発表のとき、私が一生懸命やったことなら、何でも両親はほめてくれました。たとえば、歴史上の人物の家系を百科事典で調べて、天皇家をはじめとする日本の家系図を作成したこともありました。それが何になるということではありませんが、がんばって取り組めば、ほめてくれます。ほめられるから、さらに何かやってみようという気持ちになりました。 今振り返ってみると、これは最高の学習法ではないかと思います。というのは、学習のプロセスはインプットとアウトプットの繰り返し。情報を集め、理解し、人に伝えるという作業は、学習能力を高める基本的なトレーニングだからです。それを、私の場合は幼い頃からの習慣で身につけることができました。
ちょうど私が受験した東京大学は、知識の詰め込みよりも、情報をまとめ相手に伝える能力を重視した入試の方針をとっていたため、幸運でした。これがあったからすんなりと合格できたと思っています。


多くの受験生をサポートしたい!

その後、中学、高校で熱中したのは、家庭教師のアルバイトです。最初は中学2年生のとき、家庭教師募集の張り紙を見て、お小遣いほしさに連絡しました。中学受験を控えた小学生に勉強を教える家庭教師で、本当は高校生が良いという話だったのですが、「中学受験であれば、受かったばかりの自分の方がいい」と半ば強引に説得(笑)。何とか任せてもらえました。
それ以降はたくさんの生徒に勉強を教え、いろいろな勉強法を試しました。自分で試して、良ければ人に教え、そこでも効果が出るかを検証してみるというステップです。それが楽しかったのです。
東京大学で博士号を取得した後、横浜で開いた内科クリニックで受験生特有の疾患の相談を受け、やがて東京の本郷に移って受験生専門の内科神経科クリニックを始めました。私にとってそれは中高生時代の延長のようなものです。一人でも多くの受験生をサポートしてあげたい、そこで成果が出ればうれしい、その気持ちは今も変わりません。


“豊かさ”が原因!?学習意欲低下の危機

私は今、このままいくと、日本の子どもたちの学力が低下してしまうのではないかと心配しています。特に深刻なのは成績が中の上≠謔闕b「生徒たち。言われた通りの作業はできても、自分から何か物事に興味をもって探究できなくなっていると感じます。
その原因の一つは豊かさです。望めば何でも食べられる、手に入るという時代の中で、子どもたちの学習への欲求が低下してきているのです。脳医学者 吉田たかよし氏に聞く
学習への欲求をつきつめると、食への欲求に通じます。動物はお腹が減ったときに、何かエサをとらえると空腹が満たされるのとは別に、脳のA10神経が刺激され、快感を得ます。動物は空腹を満たすだけでなく、快感を得るためにエサを一生懸命探しているとも言えるのです。
人間も実は同じで、空腹を満たす快感が学習への欲求にも影響しています。ところが今は、何でも食べられ、手に入ります。おまけにインターネットが発達し、どんな情報も簡単に集めることができます。このように満たされた環境では、物事への欲求やそれを満たす快感が薄れてしまい、学習への欲求も下がってしまうのです。
これは日本だけでなく、他の先進国でも見られる傾向で、日本が今後発展していくためには克服していかなければいけない問題の一つです。


15分集中し、成果を検証する

ではどうすればいいかというと、一つは受験をうまく生かすことだと思います。受験は子どもを伸ばす、うってつけのハードルです。合格か不合格かがはっきりしていて、自分の欲求を学習で満たすという良い経験になります。たとえ落ちてしまったとしても、自分の欲求を大きくする効果があり、勉強のモチベーションは高まります。結果はどうであれ、子どもの成長にとって大切なことなのです。
「小さい頃から受験をさせるのはかわいそう」という意見もありますが、私はむしろ逆です。小さい頃にプレッシャーを経験しておいた方が、大きくなったときにストレスの耐性がつきます。小学校、中学校でもぜひ受験を経験してほしいと思います。
ただ、一生のうちそんなに何度もあることではないため、受験をするだけではそれほど明確な効果は見込めません。そこで、私が一番おすすめしているのは、15分サイクルの勉強方法です。小目標を立てて、そのために15分間集中、その後に達成度をはかるのです。学校の授業は小学生、中学生であれば1コマで1時間弱、高校生、大学生ではもっと長くなりますが、人間の集中力はそれほど長持しません。誰でも無理なく集中できるのは15分。だから、その単位で勉強し、成果をはかるのです。集中し達成感を得るというサイクルは学習への欲求を高める上で効果的です。また、海馬を刺激し、学習全体の効率も高めてくれます。
塾講師のみなさんにもすぐ応用できることだと思います。15分勉強して、それに関連してテストを行い、できたらほめる、あるいは、15分勉強してそこで学んだことを発表するというサイクルを取り入れればいいのです。ぜひ試してみてください。


一億総勉強時代

最後に学習塾に関わるみなさんにお願いしたいのは、勉強の楽しさを教えてあげることです。これから発展途上国の技術力が高まり、国際競争が一層激しくなるでしょう。その中で日本が輝くためには、子どもだけでなく国民全員が勉強しなければいけません。一億総勉強時代なのです。
それだけに、子どもたちには、勉強はやらなければいけないこと、つらいことではなく楽しいことだととらえてほしいと思います。同じカリキュラムを、楽しくやるのと、ただ黙々とやるのとでは、絶対に楽しくやる方が成果が上がります。勉強は楽しいもの、一生のライフスタイル! なのです。それくらいの気持ちをもって、子どもたちに接してあげてほしいと思います。

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